LIFEのBOOK ほぼ日手帳2017

				20人に1人がほぼ日手帳を使う島
				島根県の離島・海士町で使われるほぼ日手帳

島根県隠岐郡海士町(あまちょう)。
米子空港からバスで30分、
そこからフェリーで時間。
島根沖60kmに浮かぶ離島です。
ここはいま、なんだかとっても元気な町。
人口わずか2400人弱の小さな町なのに、
毎年数十人もの人が移住してきます。
行政も、産業も、そして教育も、
もともとの住人と、外から来た人とが協力しあい、
ダイナミックに変化し続けています。
その変化のひとつが、
一時は廃校の危機にあった島前高校。
海士町を含む島前地域の離島島に
たったひとつの高校です。
その高校はいま、島外からの
入学志望者が増え、推薦入試は
定員の約倍にもなっています。

その島前高校のすぐそばに建っているのが、
公立塾「隠岐國学習センター」。
島前高生180人のうち、
140人が通っています。
2016年の春、この隠岐國学習センターの
副長・大辻雄介さんから
ほぼ日に問い合わせがありました。
「生徒たちに、ほぼ日手帳を配りたい」と。
離島で使われるほぼ日手帳のこと、
お伝えします。

なぜほぼ日手帳を選んだんですか?

大辻雄介

大手進学塾・予備校に勤務したのち、教育系企業でICTを活用した教育の事業開発を担当。その後、海士町へ移住し、隠岐國学習センターの副長として、日々生徒の指導を行う傍ら、島のICT活用を推進している。

佐藤桃子

教育系企業で幼児向けの教材編集を経て、海士町に移住。生徒たちのよき理解者として高校1年生の担任と夢ゼミを担当。

2016年4月から、
ほぼ日手帳を導入した隠岐國学習センター。
副長の大辻雄介さんと、指導スタッフの佐藤桃子さんに
導入の経緯と現在のようすをうかがいました。

――
公立の塾って、めずらしいですね。
大辻雄介
島前高校に通う生徒は、
とにかくいろんな子がいるんです。
生まれたときから海士町にいる子、
お隣の西ノ島町、知夫村から船で来ている子。
島前高校は「島留学」といって
島外からの進学も受け入れていますので、
生徒は日本全国、海外からやってくる。
そうなると、学力も希望する進路も、
ほんとうにバラバラです。
そこで、
生徒一人ひとりの学びをサポートしつつ、
本当に希望する進路に進むことを
高校と連携しながら支えていくために
この公立塾ができました。

以前は、
島前高校への入学者もどんどん減っていました。
でもここがもし廃校になってしまったら、
残された子供たちは島外の学校に通わなければならない。
片道3時間はなかなか毎日通える距離ではないから、
家族全員で島を出るという選択肢が生まれてくる。
すると、島全体の人口減少につながる。
だからこそ、地元の子どもたちはもちろん、
島外からも入りたくなるような高校にしようと、
島前地域三つの島の町村が
カリキュラムを見直したり、PR活動を行ったりと、
「島前高校魅力化プロジェクト」をはじめました。
その一環で生まれたのがこの隠岐國学習センターなんです。
――
その学習センターで、なぜ今回、
ほぼ日手帳を導入しようと思われたんですか?
大辻
隠岐國学習センターはちょっと変わった塾でして、
先生が前に立って授業をするというスタイルではないんです。
「自立学習」と「夢ゼミ」という二本の柱で
学習を進めています。
自立学習は、それぞれの目標に合わせて
計画を立て、それに沿って勉強をするもの。
夢ゼミは、「そもそも、夢ってなんだろう?」
というところから考えます。
自分の興味の範囲と、
社会的課題のまじわったところを
探していくんです。
佐藤桃子
これまでも、自立学習に際して
計画を立てるためのワークシートなど、
いろいろ試してみました。
でも、せっかく計画を立てても
そのシートをなくしてしまったりして、
振り返ることができない。
そこで、学習の記録をひとつにまとめることが
必要だと思ったんです。
――
いろいろな手帳があるなかで、
「ほぼ日手帳」を選ばれたのは?
大辻
まず、二人ともほぼ日手帳が好きだというのがあって。
佐藤
それはありますね(笑)。
大辻
もちろん、ほかの手帳も検討はしました。
でも、使い方が自由、というのが大きかった。
僕たちは手帳を導入したあとも、
「このページをこうやって使いましょう」という指導は
していないんです。
ただ、学習の目標を立てて、実行して、
振り返るということさえできていれば、
一人ひとりが自分の好きなように使えばいい。
佐藤
最初に手帳といっしょにガイドもくばりましたが、
そこにも詳しいことは書いていません。
大辻
その代わり、
スタッフが生徒全員と面談をするようにしたんです。
「だんだんトーク」って呼んでるんですけど。
――
「だんだんトーク」?
佐藤
こっちの方言で「ありがとう」っていう意味です。
大辻
生徒がつけた名前です。
毎回10分くらい、
手帳を挟んでスタッフと生徒が向き合い、
計画の立て方が適切かどうか、
やっている内容に遅れがないかどうかを話し合う。
それによって、
子供たち一人ひとりがよく見えるようになりました。
佐藤
センターに通う生徒は140人。
スタッフは5人と、インターンの大学生が3人。
生徒一人ひとりをちゃんと見たいと思ったら、
いままでのやり方じゃだめだったんです。
生徒がわからないことを聞いてくるのを待つより、
計画を立てる力そのものにアプローチするほうが、
学力もきちんと伸びるし、
信頼関係も構築できるんじゃないかと。
去年までは「今日は数学の日」「今日は英語の日」と
決まっていたけれど、
その枠組みもなくして、
「いつ何をやってもいい。ただし手帳に記録すること」
と伝えています。
そして、面談のときにたとえば英語が進んでいなかったら
そこについて声をかけるようにしています。
大辻
授業を自由にしたぶん、
記録しておくものがないと指導しきれない。
手帳がないと成り立たない授業形式に
なっている感じですね。
――
手帳を導入するに伴って、
授業形式自体が変化しているんですね。
大辻
みんな、意外と楽しんで
手帳を書いてくれているんですよね。
佐藤
隠岐國学習センターには、自立学習のほかに、
夢ゼミという授業があります。
高校でも「夢探究」という自分や社会について学ぶ授業や、
「地域学」「地域生活学」など、地域について学ぶ授業もある。
部活動や、ふだんのくらしでも、
自分の夢を考えるきっかけはたくさんあるんです。
でも、そういう時間をただ過ごしているだけだと、
そのときに感じたこと、気づいたことなど、
自分の夢につながるような要素を
忘れていってしまう。
せっかく手元に手帳があるのだから、
そこも残してほしいなあと思って。
――
「夢ゼミ」はどの大学に進学する、といったものではなく、
かなり具体的な夢を描くわけですか?
佐藤
そうですね。
もともと夢ゼミは、
「学習意欲向上授業」という名前だったんです。
目標がないと、勉強も頑張れないので、
「何をやりたいかを明確にしていくことは、
 勉強するとセットで必要だよね」というのが、
学習センターができた当初からコンセプトとしてあった。
それをどんどん
ブラッシュアップしているような感じです。
大辻
そもそも、夢ってなんだろう? というところから
考える。
自分の興味の範囲と、社会的課題の交わったところを
探していくんです。
その結果、
「イルカの調教師になりたい」という子がいたら
「じゃあいっしょに美ら海水族館に電話して、
 何を学べばいいか聞いてみよう」とか、
できる限りのことはサポートしていきます。
佐藤
夢ゼミって、
いわゆる勉強の枠からははみ出した授業です。
でも、ほぼ日手帳は
そこもちゃんと受け止めてくれる。
もともとは自立学習のために
導入した手帳で、主に週間ページを
使うことを想定していたんです。
でも生徒たちが自然と
週間ページで自立学習を管理して、
一日ページに夢ゼミに関する要素を記して、
という形に使うようになっていて、
学習センターらしい使い方に
落ち着いてきたな、と思っています。
大辻
違う手帳やノートを使っていたら、
いまのように夢ゼミにつながる結果も
きっとなかったと思う。
ほぼ日手帳の導入は、
本当にいい選択をしたなと思っています。

(つづきます)
写真/松村隆史

2016-10-08-SAT

「ほぼ日手帳公式ガイドブック2017」にも、
海士町の記事を掲載しています。