「池上彰」という新しい職業。 「池上彰」という新しい職業。
キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
第8回 直感を働かせる方法
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糸井
池上さんの中には、
「まだ説明できないけれど俺だけが知っている」
という、やり残したままにしているものが、
大量のマグマのようにあるんでしょうね。
池上
そうだろうとは思うんですけど、
私はとにかく人に説明をしたくって、
説明するためにはどうしたらいいんだろうって
ずっと考えているんです。
勉強するときに一番効率がいいのは、
「これを誰かに教えよう」という
問題意識を持って覚えることです。
たとえば自分の子どもや親に、
おじいちゃんやおばあちゃんに説明するなら
どういう言い方をすれば伝わるかな、
という問題意識を持って勉強すると、
おもしろいように自分の中に入ってきますよ。
糸井
テレビやネットを見ていると、
デタラメの比喩を使った宣伝をしたり
嘘をついたものがわかりやすいからといって、
安易にそっちに流れちゃう人もいますよね。
何も知らないおばあちゃんを騙したり、
怪しいものがいっぱいあります。
あれは、どこが道を分けるんですかね。
池上
伝える側が本当に理解していれば、
どこまでデフォルメできるかわかるんですよ。
中途半端に「勝手にこういうことだろう」って
決めつけちゃっていると、
とんでもない間違いになることがありますよね。
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糸井
決めつけた方が自分に都合がいいケースでも、
同じように嘘をつきますね。
池上
そのとおりですね。
糸井
池上さんの立ち位置っていうのは、
「俺はこう思うんだよ、こうしたいんだよ」
という自分の考えを表現するのではなくて、
そのときに起きている渦を上から俯瞰して見て、
台風の目みたいな場所を探すような
思考になっているんじゃないかという気がします。
池上
いわゆる、鳥瞰図という視点ですね。
糸井
そうです、そうです。
ドラッカーが経営の理論や生態学的なことを
いっぱい語っていますけど、
『傍観者の時代』という本が素晴らしいんです。
自分は傍観者であるけれど、
そこに自分の考えがないかといえばそうではなく、
考えはちゃんとあるんですね。
「上から天気図を見るような私でありたい」
というような池上さんの立ち位置は、
とっても素敵でおもしろいと思うんですね。
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池上
今起きていることを、つい説明したくなるんです。
じゃあ、どう説明したらいいんだろうか。
具体的な話なら簡単に説明できますけど、
たとえば、アメリカのトランプ現象や
イギリスのブレグジット(EU離脱)を
どう説明しようかって、簡単な話ではありません。
まずは、グローバリズムがどんなものか、
世界史の中でどう位置づけられるか。
今度はそこに歴史観というものが出てきますよね。
すごく難しいことですけれども、
説明したいものだから歴史を学び、
自分なりの歴史観を作っていくことになります。
糸井
池上さん自身の歴史観や世界観は、
どう作られたんでしょうか。
池上
私はいつも不安なんですよ。
つまり自分自身が浮遊していて、
つかまるべきアンカー(碇=いかり)が
どこにあるか最初はわからないこともあります。
たとえば、トランプ現象が起きたときに、
「とんでもないヤツが出てきたな」と思って。
糸井
難しいですよねえ。
池上
でも、あれよあれよと支持が出てきました。
これまでの常識では考えられなかったんです。
どう考えたらいいだろうって、不安になりました。
じゃあ、どうしようかって調べて、
ひとつの仮説を立てることができたら
ちょっと安心します。
でも、そこで気をつけなきゃいけないのは、
仮説ができた段階で決めつけてしまい、
「俺はここから動かないぞ!」ってやると
仮説が間違っているかもしれませんよね。
自分が立てているのは、あくまで仮説です。
とりあえずここに碇を下ろすけど、
調べてみてズレていると思ったら、
碇を上げて、またちょっと漂うんです。
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糸井
動きながら、いつでも考えているんですよね。
本当は碇を下ろしている暇さえないくらいに
絶えず動いてるわけで、
だからこそ、放送日の決まっている
テレビが向いていますね。
「こういう出来事があったので、
みなさんにこの解説をお伝えしたくなりました」
と、つねに更新されるお話をなさっていますよね。
池上
はい、はい。
糸井
そういう立場は、今ならではじゃないでしょうか。
大河ドラマの関ヶ原の戦いでは
「あいつは寝返った」とか絶えず動いていますけど、
メディアを通じて雲の動きみたいなものを
語り続けるというのは、伝わる速度を考えたら
恐ろしいことをやってますねえ。
池上
これから何が起きるんだろうかって、
常に注意することが必要なんだと思うんです。
たとえば先日ニュースになった話ですが、
トランプ政権で国連大使だった
ヘイリーという女性が年内で辞めるそうです。
彼女はインド系の移民の娘で、
サウスカロライナ州で
女性として初めての州知事になり、
全米では最年少の知事だったんですよ。
私、いずれこの女性はアメリカで初の
女性大統領になるかもしれないと思ったんです。
ヒラリーが大統領にならなかった場合は
ヘイリーになるかもしれないぞと思って、
彼女の生い立ちが書かれた本を買いました。
そうしたら、あれよあれよっていう間に
トランプ政権で国連大使になり、辞めたでしょう?
糸井
うんうん。
池上
どうも、2024年に大統領候補として
出馬するんじゃないかと言われているんです。
今のトランプ政権を支えてきたので、
2020年の大統領選挙に出るわけにはいきません。
2024年にトランプが辞めた後に出る、
その準備を始めたんじゃないかなって思うんです。
ということは、ヘイリーがいずれ大統領選挙に
出るんじゃないかと思っていた見立ては
意外に合ってたのかもしれないぞ、
と、ひとりほくそ笑んだりするわけですね。
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糸井
ずっと見ているから、直感的な何かが働くんだ。
気象予報士とやっぱり似てますね。
池上
そうかもしれないですね。
私が2005年にNHKを辞めた後、
日本テレビの『世界一受けたい授業』に出たんですよ。
このとき、アメリカ大統領の仕組みを話しまして、
「2008年には日本のどこかの都市のような名前の
黒人の若手が選挙に出てくるかもしれないよ」
とスタッフに言ったんですよ。
糸井
オバマ大統領ですね。
池上
当時のオバマは民主党の若手として
「演説がやたらにうまい」と注目されていたんです。
すぐに大統領になるかわからないけど、
大統領選挙に絡んでくるという予想はしていました。
でも、ディレクターは全然理解してくれなくて
「ああ、そうすか」で終わりましてね(笑)。
大統領に就任したあとで、
「あのとき、やっときゃよかったですねえ」
と言ってましたね。
糸井
アメリカの地方局のドキュメンタリーで、
大学生の頃からオバマをずっと追いかけていた番組を
NHKで見たことがあります。
マケインとオバマが争っているときに、
学生時代からの映像が残っていて感心したんです。
アメリカでは特に、ハズレでもいいから、
全部に投資しておくことをしますよね。
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池上
アメリカにエンジェル投資家っていますよね。
いろんな新しい事業を始める起業家に
資金を投資をする人たちです。
彼らは10件に投資して1件当たればいいもので、
あとは全部ハズれてしまうわけですが、
それでも損を承知で投資しています。
有力な政治家をとりあえず見ておくというのは、
同じ発想と言えますよね。
糸井
野球やバスケットボールの選手の獲り方も同じですね。
どんなものであろうがハズレに対する投資って、
当たることの儲けに比べたら
たいしたことがないんだと思うんですよ。
池上
ひとつが成功すればね。
糸井
0を1にするときに
たとえば3000万円かかるとするなら、
30万を100人に配っても平気ですよね。
ひとつでは、つまんない。
可能性のあるものは生きるわけだし、
シャケの産卵みたいなものですよ。
池上
そういう投資をしてくれる人がいるからこそ、
成功するとも言えますね。
(つづきます)
2018-12-05-WED
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